文学座さんへ 12月7日

 日記 観劇 読書感想文

 

 

文学座さんへお芝居を観に行ってきました。

 

 

 

 

 

 

今から59年前、文学座で起こった「喜びの琴事件」による分裂劇を描いたというチラ

シのあらすじにつられて行ってきたわけです。

そうです。我が劇団NLT創設のきっかけとなった事件です。

 

 

 

少し説明しないといけませんね。

その年、 三島由紀夫先生の新作『喜びの琴』の上演が決まり、ですが出来上がった

戯曲の内容が現実の事件に似ていて、更に反共 (共産党を攻撃) する内容になってい

ると事務局の人が言い始め、出演の俳優たちが「こんな芝居は出来ない」と言い出し

片や「そんな作品ではない」として上演続行を言う人とで、文学座の中でも二分する

ような問題になった訳です。

 

結局、上演は中止、三島先生は文学座を脱退、更に中村伸郎、賀原夏子、村松英子、

南美江、丹阿弥谷津子、北見治一、青野平義、演出の松浦竹夫、作家の矢代静一ら

が脱退。

で我が劇団NLTが出来るわけですわ。

ちなみにNLTとはネオ・リテラチュア・テアトル。つまりは 新・文学・座という

意味です。命名はかつて〈文学座〉を命名したご本人・岩田豊雄(獅子文六)先生。

 

 

この話にはもっといろんな思惑もあって、面白いと言っては失礼ですが、そりゃいろ

んな思惑が交錯した、当時はけっこう新聞ネタになるほどの事件だったんですわ。

 

 

戦前、新劇と共産党は一心同体。そりゃ日本を共産主義の国にするための政治活動を

秘かに、且つ大胆にやっていました。

 

それに対し、政府は徹底的に取り締まり、拷問や、中には獄死する人もいたくらいで

した。特に〈赤狩りの安倍〉と言われた方が特高部長だった期間はすさまじく、拷問

のやり方もちょっとここでは言えません。

 

その辺は多くの書物が出ています。特に驚愕を持って読んだのは沢村貞子さんの『貝

のうた』、そして堀川惠子さんの『戦禍に生きた演劇人たち』。すさまじいですよ。

 

ボクたちが成人したころ、まだまだお達者だった新劇の大ベテランの方々は、大抵の

人に逮捕歴があったんですよ。治安維持法違反で。

 

 

それに対し文学座さんは、つまりですね、共産党と一心同体だった新劇にも、共産党

とは一切関係なく、純粋にいいお芝居を作りたいという人がいて、それが当時新劇に

於いて最高の俳優と女優と言われた友田恭助と田村秋子でした。その二人のために、

久保田万太郎、岩田豊雄(獅子文六)、岸田國士の三先生が幹事として作ったのが文学

座さんなんですわ。

 

つまり文学座さんは、新劇では珍しい思想や政治色の無い劇団だったわけです。

 

それがいつの間にか他の劇団と同じような感じになっていった。

共産党が秘かに事務局に入り込んで (つまり事務員募集に応募して) いたとか、杉村

春子さんが中国が大好きで、事実日中国交正常化以前からしょっちゅう中国に行って

いて、中国は右派の三島由紀夫排除を共産党に命じていたとか……いろんな噂がね。

 

 

まぁ、とにかくいろんなことが爆発して分裂劇が起こるんですわ。

その辺りのことは 中丸美繪・著『杉村春子 女優として、女として』に詳しいです。

あと北見治一先輩の『回想の文学座』にも。

更には、出て行った側からの真実は、我がNLTに残るもの、賀原先生が書き残し

たものにも。ボク、この事件は興味があって、随分前ですけどいっぱい調べました。

 

 

ちなみに、この上演中止と分裂は1963年の末。本来上演は翌1964年の1月。でも中

止。そしたら5月にはもう浅利慶太氏の演出で日生劇場で上演されています。早。

まるで中止を予測して企画していたような速さです。

ちなみのちなみに、この芝居には女性は一人しか出ません。それが賀原先生ですわ。

で5月の浅利版にも退座した賀原先生が、NLTからは青野平義、奥野匡の二先輩が

出演されています。

しかし1月の芝居が中止になったら、5月にもう日生でやるって。執念ですな。

 

 

 

さてさて。昨日拝見したこの芝居のチラシには

 

  「昭和38年、当時文学座文芸演出部に籍を置いていた三島由紀夫の新作『喜びの

    琴』上演をめぐって劇団総会は紛糾していた…。アトリエで起きたできごとを

    アトリエで体験していただきます」

 

と書かれています。

 

更にはタイトルの『文、分、異聞』。つまり、

 

  文 は文章の文、つまりは戯曲。

  分 は分裂の分、つまりは分裂騒動。

  異聞 はこれまで聞いていたものと違うという意味。つまり新説展開。

 

ね。

これは、僕が今まで調べに調べたことではない、文学座さんにしか分からないすごい

真相が出てくると思うでしょ。その時何が起こったのか!

あるいは、当事者にしか分からない、その時の心の裏がバンバン出てくるのか。

 

つまりこのお芝居は〈歴史ミステリー劇〉あるいは〈人間本質劇〉だと。

 

もうね、早くから切符を抑えて、ワクワクして行きましたよ。

 

 

 

以下ネタバレ有です。お気を付けください。

 

明かりがつくと、(出演者は全員若い人です) その紛糾する総会の風景から始まりま

す。戌井先生、杉村さん、長岡輝子さん、賀原先生、松浦さん、北見さん、北村和夫

さん、そして唯一若手から草野大悟さん。そして事務局(総務部)の男女二人。(すべて

若い俳優さんが演じてます)

 

それともう一人。それを下手後ろで悠然と見ている派手な女性。誰だろう。

 

これは面白いぞ。歴史の謎をどう解決するのか(●^o^●)

 

 

ところが……この場面は10分程で終わります。

 

それは、みな入ったばかりの研究生一年目と二年目の若き俳優たちが、同期生で一人

だけもう売れてこの日も仕事のため一人総会に出られなかった小川真由美さんの為に

総会の風景を演じているシーンでした。つまりは杉村さんだと思ってた人は杉村さん

を演じていた樹木希林さんだったのです。(^O^)

 

その入団したばかりの若き俳優たちがすごい。

 

  戌井先生を演じてのが 岸田森さん

  松浦さんを演じたのが 江守徹さん

  北見さんを演じたのが 寺田農さん

  賀原先生を演じたのが 稲野和子さん

  草野さんを演じたのは 草野さん本人

  事務局二人は 菅野菜保之さんと八木昌子さん

 

といった具合ですわ。間違っていたらごめんなさい。

 

つまり我々が杉村さんだと思ってたのは樹木希林さんで、樹木さんを渡邊真砂珠さん

という若い女優さんが演じているという訳です。

面白いメタ構造ですね。

それと、流石文学座さん。皆さんお若いのにしっかり演じてらっしゃいます。 

 

 

 

ところがそこから……

 

これは〈歴史ミステリー劇〉ではなく、よくある〈青春群像劇〉だったんですよ。

 

 

分裂劇を真正面から描くのではなく、また作者による推理・研究で新しい真相を導き

出すものでもなかったんですわ。

 

劇団紛糾に直面した若者の話で、彼らの、将来の夢と、希望と、不安と、挫折と、強

気と、弱気と、そして恋と……つまり、「喜びの琴事件」に直面した若者の、現状に

対しての、未来に対しての不満や悩みのお話だったんですわ。つまり、「喜びの琴事

件」は、若者の心に内蔵していた現状への不安を表に出す発端に過ぎなかったわけで

す。事実後半「喜びの琴事件」はほぼ関係ないし。

 

  

チラシのあのうたい文句を読めば、歴史ミステリー劇と思うでしょ。

それが、普通の青春群像劇だったとはなぁ。

 

 

もちろんその青春真っ只中にいるのが、今では名優になられている方々という面白さ

はあるし、その人たちの人間臭さも面白いのだけれど。

 

 

 

でも、歴史ミステリー劇として、分かっている事実を並べて、そこから推理して、驚

愕の真相って奴を導き出すっていうお考えはなかったのかなぁ。 

 

あるいは、事実を全て描くという手も。戌井先生と三島先生の、三島邸の2人の最後

の対決なんて、事実だけを描いても、観ている側はゾクゾクするけどなぁ。

  

 

「喜びの琴事件」 に真正面から挑んでほしかったなぁ。

  

 

ボクのような普通の青春群像劇に全く興味のない人間には……

 

 

  

とにかく「喜びの琴事件」の真相が今明かされる! を期待して行かれる方はご用心

ですね。

 

青春群像劇がお好きな方はどうぞ。

 

 

 

 

 

 

さてさて。

久しぶりに文学座さんへ行って、少々感慨深いものがありました。

 

昔の建物の時には、戌井先生との打ち合わせで何度も行きましたし、

今の新しいアトリエになってからも、江守さんと打ち合わせで何度も行きました。

 

思い出が結構……

 

 

 

 

それより、渡辺徹さんです。

驚きました。

文学座のホームページの訃報を改めて見て……マジでまだお若いのに……

 

ボク、一度だけお仕事しました。

 

 

 

 

 

 

ご冥福をお祈りいたします。

 

 

 

 

 

そしたら今日、志垣太郎さんが3月に亡くなられていたニュースが……

 

 

 

 

 

 

懐かしい義経ですね。カッコよかったなぁ! 

それと『俺は男だ!』でトランペット吹いてはったのもカッコよかった。ボク、まだ

中学ですわ。

 

ボク、志垣さんとも一度だけお仕事をしました。

もう30年以上前、『逢うて別れて』というお芝居です。

  

今日のニュースで本当に驚きました。

 

ご冥福をお祈りいたします。

 

 

 

 

 

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